一、事業の目的・意義を明確にする

私はそういうことを思ったものの、実際に取りかかるまでには、「第二電電を興すことは私利私欲のためではないか」と自問自答を続けました。皆さんにもよく話している、「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉で、厳しく自分自身を問い詰め、「動機は善だ、自分のためではなく国民のためにやるのだ、私利私欲に満ちた心ではなく、公明正大な心で第二電電を興そうとしているのだ」と、自分自身で納得して事業を始めたのです。

その第ニ電電は、つくった当初は寄せ集め部隊でした。競争相手の電電公社出身の技術陣もたくさんいましたし、商社から来た社員、京セラから派遣した社員もいました。また一般公募で集まった社員もいました。寄せ集めの外人部隊のようなかたちで、第二電電はスタートしたわけです。そういうまとまりの悪い外人部隊をまとめ、当時五兆円という巨大な売上を誇っていた電電公社に立ち向かっていくわけですから、私は第二電電の社員の人たちを次のように鼓舞しました。「第二電電は稲盛和夫の名誉欲やら私利私欲からっくったものではありません。国民のために安い通信料金の社会をつくりたいから、この会社をつくったのです。社員の皆さんも、そういう第二電電をつくった目的に賛同してくれるなら、出身母体は何であれ結束し、強大な電電公社に立ち向かっていこうではありませんか」
「百年に一回あるかないかという激動、変革のときです。このような壮大な仕事に携わることができる、関係することができるチャンスなど滅多にありません。その素晴らしい機会に恵まれた幸運に感謝し、団結して一緒に戦おうではありませんか」